オルダス・ハクスリー
松村達雄 訳
1974 講談社
ボカノフスキー。ロシア系といえばこれか。時計じかけのオレンジでもルドビコの権威としてブロドスキーというロシア系がでてくる(さらにアレックスたちはロシア語に似た英語を使う)。これには唯物論的な研究、この場合、行動主義や条件反射学しか許されなかったソ連の生理学に対する欧米の見方が影響している(日本のガンダムのミノフスキーはちょうどツィオルコフスキーのようなものと脳内補完)。つい最近、「クライシス・オブ・アメリカ」でリメイクされた「影なき狙撃者」もそういう内容であり、共産中国の「洗脳」とも結びつく(後はハーバードやイェールで教鞭をとったロバート・ジェイ・リフトンが詳しいので読んでやって)。さて、すばらしい新世界で崇められるフォードはソ連やドイツとのスキャンダルで有名だ。1932年発表当時のドイツはヒトラーが首相になる前、つまり、ヒトラー内閣ができる1933年1月より前なのでワイマールであるが、私はフォードがなぜ反ユダヤ主義的だったのかが気になる。「国際ユダヤ人」というト本によると、フォードはユダヤ人の本質を私利私欲と見ていた(ただし、この本には反論がでている)。これが本当だとすればマルクスやある論理学者にも通じる。フォードが社会主義者やリベラルと親しかったのも事実である。戦後もフォード財団が世界各国で社会主義政権や社会主義的政策に関与し、ダレスや冷戦外交やマッカーシズムの邪魔になったことを考えれば納得する。コジェーヴは「マルクスは神、フォードはその予言者」と言ったが、すばらしい新世界ではGodがFordになって、マルクスは主人公になっている。この小説の科学的なアイディアの多くは以前に紹介したJBSホールデンにある。ソ連と関係があった兄ジュリアンに比べ政治的ではなかったオルダス・ハクスリーがマルクスやレーニンをネタにするのもホールデンの影響か。